岩手県北上市にある夏油温泉(げとうおんせん)を訪問した。岩手でも屈指の秘境として知られる名湯『元湯夏油』(もとゆげとう)に一泊二食付きで宿泊したので、その体験を記す。
なお、同じ岩手県にある花巻温泉郷の鉛温泉(なまりおんせん)と大沢温泉(おおさわおんせん)にも訪問しており、訪問記事はこちらから。
温泉の特徴 #

元湯夏油の大きな特徴は、やはり、圧倒的な温泉の醍醐味である。元湯夏油には7つもの源泉があり、そのうち5つが足元自噴泉である。1つの宿でこれほどの源泉があり、かつ5つも足元自噴泉を堪能できるのは、全国でも最多ではないだろうか。
泉質はナトリウム・カルシウム-塩化物泉で、色は無色透明である。また、元湯夏油の温泉は全て、100%源泉掛け流しで提供されている。これだけの源泉数で、全て100%源泉掛け流しというのは、他に類を見ない温泉施設だと思う。
源泉の中には47℃という猛烈な温度もあり、流石の私も熱すぎて入ることができなかった。自然そのままの温度で湧き出す湯の厳しさと、本物の温泉が持つ効能の違いを、まさに肌で感じた瞬間だった。
川沿いに点在する露天風呂では、意外な光景にも出会った。外国人観光客が、熱い温泉と冷たい川の水を交互に行き来し、温冷交代浴を謳歌していたのだ。古くからの湯治文化が、国境を超えてダイナミックに楽しまれている様子は、実に興味深い風景だった。

温泉に入った後は、恒例の瓶入り牛乳を頂いた。こちらでは雪印の瓶入り牛乳が売られていた。
館内施設 #

元湯夏油は湯治場らしく、建物は結構老朽化しており、特に廊下は流石に痛みが激しいなと感じた。廊下を見た際の正直な第一印象は、「刑務所みたいだな」というものである。多分、実際の刑務所はもっと奇麗だと思うが。私は他の湯治宿でも慣れていたのでさほど気にならなかったが、潔癖症の人には厳しい環境かもしれない。

ここで思い出したのが、同じ岩手の有名湯治場である花巻温泉郷 大沢温泉 湯治屋だ。あちらは旅館部と湯治部が分かれており、湯治部であっても清潔感があり売店も充実している。湯治宿の初心者には間違いなく大沢温泉を勧めるだろう。対してここ元湯夏油は、旅館部ですら大沢温泉の湯治部と同等の年季の入り方(ボロさ)を感じさせる。この飾らなさを受け入れられるかどうかが、夏油を楽しむための分水嶺になる。
想像を裏切る豪華な食事のギャップ #

館内の無骨さから、食事も簡素な一汁一菜を想像していたが、これは良い意味で裏切られた。 元湯夏油のような湯治宿だと、自炊湯治であったり、簡素な食事のイメージが強いが、食事付きプランで提供される料理は、湯治宿としては驚くほど豪華であった。
湯治宿というと私は酸ヶ湯温泉も宿泊しているが、そちらは湯治宿らしく質素な料理であったのと対照的である。もちろん、プランと値段が異なるので、単純に比較は出来ないが。

鍋料理も出されると、本格的な旅館の夕食である。

朝食はしっかりと重箱に入れられて、温泉たまご・納豆・焼きのりが付いた和食であった。私は普段から朝食は和食なため、白米とそのおかずのような朝食が、一番しっくりくる。
アクセス:送迎バスの手配を忘れずに #

夏油温泉へのアクセスについてだが、東京方面から東北新幹線に乗り、最寄り駅北上駅で降りる。ここで注意を要するのは、北上駅から夏油温泉への路線バスは廃止されていることだ。私は古い情報を参照しており、廃止に気が付いたのは宿泊の前日夜だった。
元湯夏油の宿泊案内を見ると、「送迎バスの予約は前日まで」と書かれており、急いで宿に電話をかけた。夜間ということもありなかなか繋がらなかったが、どうにか電話で話すことができ、予約出来たという経緯がある。一人旅だったので、追加する余裕があったようだが、もしこれが団体や家族連れであれば、旅の計画は破綻していたかもしれない。

北上駅に着くと送迎バスが到着していた。送迎バスに乗り込むと、車内は東北の湯治宿らしく、ご高齢の方々が殆どであった。
総括:観光を捨てただ癒しに身を委ねる #
滞在を通して再認識したのは、温泉宿の周りには何もなくていいということだ。 観光地を巡る必要などない。良いお湯に浸かり、美味しい食事を摂り、あとは泥のように眠る。疲れを癒すには、それだけで十分なのだ。
アクセスの難易度、予約のハラハラ感、そしてストイックな建物。すべてをひっくるめて、ここは秘境と呼ぶにふさわしい。もしあなたが、雑音を排して真の湯と向き合いたいなら、この崖下の迷宮は最高のリセット場所になるはずだ。