「いい電」の先に待つ、二度の宿泊と二つの名宿 #
東京から新幹線を降り、福島駅からレトロな「いい電」に揺られること約20分。飯坂温泉は、私の東北旅において二度も宿泊で訪れた数少ない地だ。
一度目は、明治時代の面影を残す共同浴場『鯖湖湯』の真隣に立つ『ほりえや旅館』。二度目は、駅近で利便性の高い老舗『平野屋旅館』。どちらも家族経営の温かさが滲み出る、こじんまりとした名宿である。
木造建築の宿から、浴衣で「鯖湖湯」へ #
特に『ほりえや旅館』の滞在は忘れがたい。歴史を刻んだ木造建築の重厚な佇まい。その宿は、一歩外に出ればそこがもう『鯖湖湯』という最高の立地だ。
浴衣姿のまま下駄を鳴らして共同浴場へ向かう。そこには47度近くにもなる灼熱の湯が待っている。かつて秋保の共同浴場で「逃げるのか」と冷笑された記憶が頭をよぎるが、飯坂の空気は正反対だった。熱さに悶える私に、地元の先客たちは「熱いだろう」「こっちは少し入りやすいよ」と優しく声をかけてくれる。この「熱さ」を介した人情こそが、飯坂の、そして東北の真の体温なのだと知った。
人生で一番の日本酒『摺上川』と、完熟の『あかつき』 #
しかし、飯坂が私を真に虜にしたのは、湯上がりの『ほりえや旅館』での夕食だった。 今では珍しくなりつつある「部屋食」。落ち着いた空間で供される料理はどれも素晴らしかったが、そこで出会った日本酒、福島市産の『摺上川(すりかみがわ)』には衝撃を受けた。
これまで数多の銘酒を呑んできたが、この酒と宿の料理の組み合わせは、今までで一番美味しいと感じるほどだった。あまりの旨さに、帰りには自分用の土産として買い求めたほどだ。さらに、デザートの福島県産桃『あかつき』の甘美な味わいが、幸福な夜に完璧な幕を引いてくれた。
総括:湯と食と人が織りなす「再訪の約束」 #
宿の内湯で静かに自分と向き合い、共同浴場で地元の活気に触れる。そして部屋に戻れば、究極の酒と食が待っている。
秋保での苦い経験を経て辿り着いた飯坂には、温泉地の「光」がすべて詰まっていた。古い建物を守り、訪れる人を家族のように迎え、極上の恵みを振る舞う。飯坂温泉は、私にとって単なる旅先ではなく、「ただいま」と言いたくなるような、温かく熱い故郷のような場所になった。