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日帰り客の喧騒を離れ堪能する清らかな弱アルカリ単純泉――鬼怒川温泉(栃木県日光市)

·737 文字·2 分

渓谷に消えた記憶と、変わりゆく街の景色
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特急の座席に身を委ね、幾度となく訪れた鬼怒川温泉。この地を巡る旅の記憶を辿ると、今はなき施設の面影が浮かぶ。かつて川沿いに佇んでいた日帰り温泉『湯処すず風』だ。

現在は閉館したと聞くが、最上階の休憩所から見下ろした渓谷の絶景は、今も鮮明に記憶に残っている。無色透明な湯そのものに際立った特徴があったわけではないが、駅周辺の喧騒から離れ、独り景色を眺める時間は貴重だった。しかし、下駄箱の返金されないコインロッカーといった細かな不評や、立地ゆえの孤立感は、厳しい観光業界の現実を物語っていたのかもしれない。

『鬼怒川グランドホテル 夢の季』で出会う至福の時
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対照的に、宿泊で訪れた『鬼怒川グランドホテル 夢の季』での体験は、この温泉地のポテンシャルの高さを改めて知らしめてくれるものだった。

一歩足を踏み入れれば、館内を包むのは落ち着いた高級感。チェックインの手続きをロビーのソファーで寛ぎながら行い、差し出される温かいお茶の香りに、移動の疲れが静かに溶けていくのを感じた。こうした細やかなホスピタリティこそが、旅を「特別なもの」へと昇華させてくれる。

透明な湯に身を委ね、静寂を愉しむ
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大浴場で注がれるのは、無色透明の弱アルカリ単純泉だ。泉質そのものは穏やかだが、それゆえに旅路の疲れを癒やすには十分すぎるほど優しい。何より、大浴場が宿泊者専用であるため、日帰り客の混雑に惑わされることなく、心ゆくまで静寂を愉しめるのが素晴らしい。

廃墟という言葉で語られがちな鬼怒川だが、そこには消えゆく場所への哀惜と、今なお磨き抜かれる名宿の矜持が共存している。透明な湯に浸かりながら、変わりゆく街の行く末に思いを馳せるのも、この地を訪ねる醍醐味の一つなのだ。

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